OUR FUTURES

このストーリーは

プロジェクト 「 フューチャーセッションズ未来勉強会

から投稿されました。

店を開くにしても会社をつくるにしてもコミュニティ活動をするにしても。
成功を呼び込むには『地域に認められ愛されていくこと』が大切なエッセンスです。

でも、地域に認められ愛されていくにはどうすればいいのでしょうか。


今回は神奈川県川崎市をホームとするサッカークラブ・川崎フロンターレから、サッカー事業部 施設事業グループの岩永修幸さんにお越しいただいての未来勉強会です。


川崎フロンターレは「ホームタウンで大きな貢献をしているクラブ」に、なんと9年連続で第1位。

その秘密を岩永さんに紐解いていただきながら、参加者みんなで「地域に〇〇があって良かった」という問いについてを考えてみました!




スポーツ雑誌の記者を経て川崎フロンターレへ


はじまりは岩永さんのインスピレーショントークから。

最初に今回の勉強会に臨む姿勢を岩永さんは話してくださいました。


岩永さん)こんにちは、フロンターレの岩永です!
先日、今日の勉強会についてフューチャーセッションズの田上さんと打ち合わせをしました。そのとき、この勉強会ではゲストとしてお話をさせて頂くという立場になりますが、"わたしこそ参加者のみなさんに学ばせていただく姿勢で参加したい"とお伝えさせていただきました!よろしくお願いします!

シュッとスマートな岩永さんです。しゃべりが明瞭でパワフルで、第一声から聞き手の気持ちをぐっとつかみます。


さっそく岩永さんの経歴から話がはじまりました。

岩永さんは東京外語大学を休学して、サッカーのウェブサイトの編集部でアルバイトをしたり、ドイツの小中学校で日本文化教師のインターンをしたり、帰国してサッカー専門誌に勤務したり。若い頃は目まぐるしくポジションをチェンジします。

岩永さん)そして、28歳のときに『Sports Graphic Number』(文藝春秋)に勤務しました。その後に、川崎フロンターレに声をかけられてその翌年に、フロンターレの所属となります。




会場に足を運んでくれる人はお客様でなく仲間


川崎フロンターレでは、最初からトップチームの試合運営担当となり、試合会場運営の統括を担うことになったという岩永さん。選手のがんばりのおかげでフロンターレの人気は上々で、スタジアムはいつもファンでいっぱい。でも、岩永さんはそんな状況が気がかりだったそうです。


岩永さん)過去にヨーロッパのスタジアムで混雑を原因とする大きな事故が何度かありました。ホームスタジアムである「等々力陸上競技場」も混雑していて、いつ機能麻痺が起こるか分からない。これはまずいと思って、来場者の導線を確かめて、売店の位置を変えたり、場内のイベントスペースを広げたり、さまざまな取り組みを行うことにしました。

入場した来場者が走って転ばないようにマスコットが歩いて席まで誘導したり、席を詰めて座るよう新撰組の衣装で演出をしながらうながしたり……。

クラブの案内を来場者が素直に受け止められるよう取り組みを実施していったそうです。

岩永さん)わたしたちは応援に来てくださるみなさんのことを「お客様」とは言いません。お客様ではなく来場者でありサポーターです。そう、仲間として考えたいと思ったのです。あるいは、親戚のおじちゃんやおばちゃん、姪っ子や甥っ子のように捉えようと考えました。

暑い日であれば、「おじちゃん。今日は暑いけどだいじょうぶ? たくさん水を飲みながら応援してね」と、敬語ではなく親しみやすい言葉で話しかけます。きょろきょろ、うろうろしている人がいたら、「どうしたの?トイレをさがしているの?」。そんな気さくな声掛けで関係をつくっていくのだそうです。

岩永さん)試合は水物です。負けるかもしれないし、選手は見せ場をつくれないかもしれません。だから、そういったサービスの約束はできません。また、私たちは中小企業で資金が潤沢にあるわけでもないので、手厚く人材を使ってホテルのようなホスピタリティを提供することもできません。だからこそ、来場者を仲間として扱うことで、ともにクラブを盛り上げていけるようになりたいと思ったのです。


するとだんだん運営のサポートをしてくれる来場者が増えたそうです。

熱心なサポーターはチケットを買って試合を観に来たはずなのに、運営の荷物運びなどの手伝いをして、試合を観ずに帰っていくことも。でも、そのような方々は「フロンターレが盛り上がって、街を元気にしてくれることがうれしいから」と言ってくれるのだそうです。

岩永さん)クラブだけでは運営全般はまわりません。だから地元のファンを仲間に迎えて一緒にクラブを盛り上げていくことが重要だと感じています。




地域に愛されるクラブづくりが結果も生み出していく


来場者やサポーターを仲間と捉えることでクラブを盛り上げていこうとする一方で、岩永さんはスタジアムづくりにも地域とつながる工夫を盛り込みます。川崎フロンターレがホームスタジアムとする等々力陸上競技場を、地域に愛されるスタジアムへと生まれ変わらせていったのです。


岩永さん)私がフロンターレに入ったころ、地域の人たちからは、こんな声が上がっていました。

「(このスタジアムは)サッカーが好きな人にはいいよね。でも、好きじゃない人には迷惑でしかない。渋滞はつくるし、照明がまぶしいし、応援がうるさいし」

そう、サッカーが好きな人、チケットを持っている人にはいいのですが、それ以外の人をあまり考慮できていませんでした。それだとスタジアムはサッカー好きだけ集まるクローズドな空間になってしまいます。それは私たちが望んでいる形ではなかったので、もっともっとオープンな空間にしたいと思いました。


そこでスタジアムにもいろいろな仕掛けを行ったそうです。

その中で地域とのつながりという意味で大きな役割を担ったのが川崎フロンパーク。スタジアムの外側に、スタジアムの外と中をつなげるイベントスペースを設けました。チケットがなくても立ち寄れますし、イベントのほかにも様々な店が立ち並びます。

スタジアムが開かれた場所になっていくにつれて、近隣住民からのクレームは少なくなっていったそうです。逆に、「フロンターレの試合がある日はイベントがあって楽しい」「ふだんから道が明るくなって安全になった」など、プラスの評価をする声も増えはじめたのだそうです。


家族で試合観戦をしやすいようファミリーシートを設置する、選手に親近感を持ってもらうために試合後にトレーディングカードを配ったり、選手がバスから降りてスタジアムに入るときに交流ができたりするようにするなど、スタジアムの内外にさまざまな仕掛けを設けて、地域とのつながり、地域に住む人とのつながりを意識し続けました。

その結果として、Jリーグが毎年行う「Jリーグ スタジアム観戦者調査 サマリーレポート」の「ホームタウンで大きな貢献をしている」という項目で、川崎フロンターレは9年連続で1位の座を獲得することになったのです。


岩永さん)もちろん地域を大切にして一緒にもりあがっていくことは大事なのですが、チーム強いことも重要です。チームが弱いと「地域貢献ばかりやっているから」と言われてしまうかもしれません。
そういう意味では、2017年、2018年と、Jリーグで連覇したのはとてもうれしいことです。私たちのやってきたことが間違いでないことを結果で証明することができたのですから。




フィッシュボウルでフロンターレの魅力をさらに深堀り


岩永さんのインスピレーショントークの後はみんなでグループワークです。


グループに分かれて、「地域に○○があって良かった」という問いについて、みんなに考えてもらいました。

川崎フロンターレや等々力陸上競技場に関係しなくてもOK。浮かんでくるキーワードが、きっと地域を考えるエッセンスになってくるはずです。


そこからはテーブルを片付けて、グループワークで考えたキーワードをもとに、岩永さんを囲んでフィッシュボウルというスタイルの対話を行いました。


参加者)埼玉には浦和レッドダイヤモンズがあり熱狂的なファンが多いことで知られています。浦和レッズとフロンターレってどういう違いがあるのですか?

岩永さん)レッズさんはサッカーを中心に盛り上げようとしている印象がありますね。フロンターレは地域とのつながりから活性化していきたいと考えています。クラブチームによって、良し悪しは置いておいて、さまざまなスタイルがあるということです。


参加者)フロンターレには、野次を飛ばしたり相手チームの悪口を言ったりする文化がないように見えます。フロンターレはサポーターにそういうことをしないよう指導を行っているのですか?

岩永さん)応援は気持ちが湧き上がってするものですからクラブがやり方を指導するのはおかしいかなと思います。ましてや野次の仕方なんて、教えたりしないですよね(笑)。
岩永さん)わたしたちは地域の人たちとの交流を大切にしているので地域の人たちの声に耳を傾けます。地域全体の声を拾い上げることで、いまのフロンターレの応援の姿勢ができていると感じています。


参加者)地域貢献意識が高い人を選んでフロンターレの選手にしているのですか? それともフロンターレに入ってから、地域貢献意識を高めるようにしているのですか?
岩永さん)地域貢献やイベント要員で選手を採ることはありません(笑)。地域とのつながりを大切にしていますが、しっかり勝てるチームをつくることを重視して選手を選んでいます。


参加者)川崎市には150万の市民がいますが、フロンターレのファンをどのくらいまで広げたいと考えているのですか?
岩永さん)それはやはり150万人全部です。でも、当然スタジアムに全員が入ることはできません。ファンが増えるとスタジアムに来れる割合が減ってしまうので、そこは難しいところです。でも、365日街中にフロンターレが広まっていくにはどうすればいいかは考えています。
岩永さん)この地域にフロンターレがあってよかった。フロンターレがあるから、この地域はうるおうし誇りを持てる。そんなふうに思ってもらえるフロンターレになれたらいいなと考えています。




最後に、参加者一人ひとりが地域を盛り上げるアクションを発表!


インスピレーショントーク、グループワーク、フィッシュボウルを経て最後は参加者一人ひとりがひと言プレゼン。


「私や私たちの強みを活かしたアクションを生み出す」という問いのもと、地域を盛り上げるために、自分たちはどのようなアクションが起こせるかを発表しました。


=====

セッションを終えて、『地域に認められて愛されていく』ということを少し勘違いしていたことに気づきました。

地域の人に愛されるには、『地域の人をお客様として、どう喜ばすことができるか?』を考えることだと思っていましたが、

今日のセッションから、地域に認められて愛されていくには、「提供する側−提供される側(お客様)」という考え方ではなく、一緒にこの地域をより良くする仲間として捉えることがダイジだとわかりました。

これは、『自分たちの利益や便益のためだけに行動する』のではなく、『自分たちの利益や便益にもつながるけれど、地域の仲間たちが喜ぶことを優先して行動する』ことだと思いました。

こういった行動をする組織が増えることで、社会がより良くなる未来を望みたいですね。


また、次回の未来勉強会もお楽しみに!




ゲスト インスピレーショントーカー:



岩永 修幸(いわなが のぶゆき)
株式会社川崎フロンターレ サッカー事業部 施設事業グループ

1975年9月8日生まれ、長崎県出身。東京外国語大学ドイツ語学科卒業。1997年から記者となりサッカーの取材活動を開始。1998~1999年にはドイツに在住、同国のサッカー、文化等を取材・執筆。2000年より(株)学習研究社のサッカー専門誌『ストライカー』編集部に勤務。2003年に(株)文藝春秋『Sports Graphic Number』編集部へ。2005年より川崎フロンターレへ入社し試合運営を担当、加えてスタジアムをはじめとする市内のクラブ拠点づくりに携わる。


ファシリテーター:



田上 悦史(たがみ よしふみ)
株式会社フューチャーセッションズ シニアコンサルタント

1991年、静岡県浜松市生まれ。学生時代よりissue+designにてリサーチャーとしてGood Desing賞[人口減少×デザイン][福井人]に携わる。その後新卒入社株式会社リクルートマーケティングパートナーズのスタディサプリにて企画営業を担い、株式会社ディー・エヌ・エーにて、新規事業開発にてスポーツタウン構想の開発、新規競技参入の分野に従事。2019年6月よりフューチャーセッションに参画し、スポーツ分野を主に担当する。

株式会社フューチャーセッションズ 
https://www.futuresessions.com/


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