OUR FUTURES

このストーリーは

プロジェクト 「 フューチャーセッションズ未来勉強会

から投稿されました。

なぜプロジェクトは上手くいかないのか?
未知なるチャレンジを成功に導く「プ譜」とは?



世の中には、「プロジェクト(何らかの目標を達成するための計画)」が溢れています。

プロジェクトの定義には、様々な認識があると思いますが、「新たな価値やサービスを生み出すための新規事業」や「社内の働き方を変革するためのプロジェクト」はもちろん、会社内での飲み会の企画や、家族での旅行の計画も、1つのプロジェクトと呼べるでしょう。

しかし、それらの全てが、計画通りに進むことは殆どありません。納期が遅れたり、途中で目標が変わってしまったり、予期せぬハプニングに見舞われます。

一体なぜ、プロジェクトはうまくいかないのでしょうか?

各分野で先進的な活動をしているゲストと共に参加者みんなで未来を考える「フューチャーセッションズ未来勉強会」の第3回では、

予定通りに進まないプロジェクトの進め方』の著者である前田考歩(まえだ たかほ)氏をゲストに迎えて、「未知なるプロジェクトへの取組み方〜様々な変化に対応するプロジェクトの進め方〜」について、を考えるセッションを開催しました。

その内容を本レポートでお伝えします。


そもそもプロジェクトは失敗するもの


これまで多様なプロジェクトに関わった前田さん。その中には、大成功をしたものもあれば、多大なコストをかけたにも関わらず、失敗してしまったものも。


△7歳と3歳の娘さんがいる前田さん。子育てをしている中で、子どもが不意に問いかけてくる「なんで?」が面白く、メモしているとか。子どもが持つ「問い」には常識をくつがえす力があると話します。


「なぜ、多くの新規事業・新しいプロジェクトは失敗するのでしょうか?」

そんな問いから未来勉強会はスタートしました。

「結論から言うと、あらゆるプロジェクトは構造的に失敗するようにできているんですね。なぜなら、プロジェクトとはそもそも、やったことがない仕事、未知だからです。」

前田さんはこのように語り、具体的な例として、軍事学者のクラウゼヴィッツが1800年代初頭に書いた『戦争論』のある一節を紹介してくれました。

“ある1人の旅人がいる。彼は、日が暮れないうちに目的地に到着せねばならない。目的地まではあと二宿駅残っている。その距離なら、駅馬に4、5時間乗れば良い。ーこれだけのことなら実に簡単だ。”

“しかし、実際には、乗ろうと思っていた馬が一頭もいなかったり、平坦と思っていた山道がひどい荒道で、気付いた時には闇夜になっている。戦争においては、机上の計画では到底考えられないような、無数の小さな事情のために、一切が最初の目算を下回る。そうして所定の中間目標のずっと手前までしか達しないのが通例である。”

「この話を言い換えると、多くの人々はプロジェクトのスタートからゴールを、変化のない一直線の線のように、単純化して捉えてしまっているということ。」

「例えば、営業担当を一名増員すると、売り上げが○万円上がります、という風にです。」

「でも実際のプロジェクトは、線形ではなく、非線形のものです。」

「実施した施策が思ったような結果を招かない。混沌、未知とか、予測困難性を持っています。」

「例としては、採用広告に100万円使ったけど、誰もこないなんてことですね」

前田さんの話を元に、「プロジェクトが失敗する理由」をまとめると、下記になります。

1.未知なる情報が常に潜んでいる:
プロジェクトは、やったことがない未知の要素が多く、情報が充足することが稀です。既知のプロジェクトでよくある「情報を全て集めればうまく行く」という、前提を持っていても、未知なプロジェクトの場合、そもそも全ての情報が集まりません。

2.変数が無数にあり、全てを一斉に認識しきれない:
プロジェクトには、影響を与える変数が無数にあります。外的環境である「社会の変化」や「競合」などを始め、内的環境である「メンバー」や「納期」、「資金」などです。これらの変数について、既知のプロジェクトであれば、変数の範囲や重要度も理解されていますが、未知のプロジェクトでは、局面によって変わる変数の範囲や重要度の全てを一斉に認識することが困難です。

3.非線形・非静的
新規事業を実装するにあたり、分厚い新規事業計画書を作成して行動を始めると、上手くいかないということがよくあります。
これは、完璧な計画を立てようと計画書を作成している間に市場が変化し、計画書と実行の内容にズレが起きてしまうからです。つまり、環境や市場を静的なものとして捉えてしまっているということです。一方で、稟議を通すために、コストを抑え、費用対効果が高いといった、「リニア(単線)で最短なプロセス」を採ろうとしがちです。しかし、プロジェクトが未知なもので、非静的なものである以上、予定通り、リニアには進むことはまずありません。

これらのことが、プロジェクトが失敗する大きな要因だと考えています。


プロジェクトを成功に導く「大局観」


では私たちは「プロジェクト」とどう向き合えば良いのでしょうか?未知だからといって、何も策を打たず、場当たり的に対処するのは避けたいものです。

「私たちが手にすべきは方法論です。これは将棋の世界の言葉になりますが、“大局観”という考え方があります。羽生善治さんがよく言う言葉で、『最終的にこうなるのではないかという仮定を作って、そこに論理を合わせていく』ということです。その大局観を身につけると、未知の場面にも対応できるようになり、失敗を回避する方法ができる、と羽生さんはおっしゃっています。その大局観を身につけると、未知の場面にも対応できるようになり、失敗を回避する方法ができる、と羽生さんはおっしゃっています。」

「プロジェクトは、計画を綿密に立てて実行するよりも、とにかくまずは実際にプロジェクトを動かして、起きた事象をよく観察することで、ブレイクスルーに気づける、ということが多々あります。」

「プロジェクトを動かしながら、観察、仮説、実行、記録、を繰り返す。そしてそこから勝ち筋を見出す。この向き合い方がプロジェクト成功に重要であると考えています。」


ケーススタディでプロジェクト経験値を高める「プ譜」とは?


ここまで、プロジェクトが失敗する原因と、それを打開するための、プロジェクトの進め方について説明をしてきました。

しかし、理屈を理解したところで、その実践を積まなければ、プロジェクトの成功確率は高められません。しかし、新規事業などのプロジェクトをマネジメントするという経験は、マネージャーの立場にある人など、一部に限られてきてしまいます。

そこで、前田さんが提唱しているのが「プ譜」。

ケーススタディでプロジェクトを模擬体験し、成功レベルを高めることができる、プロジェクトのフレームワークです。

プ譜とは、「プロジェクト譜」の略で、将棋の試合でどんな手が打たれたのかの過程を記録し、次の試合に役立てるために使う「棋譜」と、戦争における兵の動きをボード上で再現して擬似戦争を行う「兵棋演習」から着想を得ていると言います。

まず簡単にプ譜について説明しましょう。

プ譜とは、下のような図で表されます。

まず最初に、プロジェクトの成功基準となる、「勝利条件」を右上に据え、その目標を達成するための「中間目標」を②に書いていきます。

そして、その目標を実現するための「施策」を書いていくのが③です。

この際、プロジェクトを大きく左右する外部環境など様々な変数を④に書き込んでおき、これらも踏まえて、①-③に反映させていきます。


今回のセッションでは、このプ譜を

「未来の私〜仕事と介護の両立プロジェクト」というテーマで体験しました。

※参加者の方が当日に描いた「プ譜」は、コチラのレポートページに掲載しています。

プロジェクトの成功基準となる、「勝利条件」を「介護離職をしない」とし、それに付随する中間目標と、それをクリアするための施策を下記のようにまとめています。


△前田さんが書いたプ譜


プ譜で重要なのは、「勝利条件」をどう定義するか?です。

「サッカーで言えば、1-0で勝つ(守りを固めながら勝つ)のか、5-4で勝つ(攻めを中心にして勝つ)のかでは、戦略プランニングが全く異なるように、勝利条件によって、その後の施策も全く変わります。」



△みなさんが書いたプ譜



プ譜をやってみて。気付きを生み出すの対話セッション
「うまくいかない時は勝利条件に立ち戻る」


プ譜を作成した後は、作ってみて感じた気づきや知見をペアでの対話や、全体での対話でシェアをしました。

遠くないうちに誰もが経験することになるであろう、「介護と仕事の両立」をテーマに実際にプ譜をやってみて、参加者の皆さんはどう感じたのでしょうか?


参加者の声:

参加者Aさん)
「親の介護をしながら働く状況になったときの手段から考えると、嫌なことばかり考えないといけません。でも、勝利条件やゴールから考えることで、ポジティブな未来を実現するために何をすれば良いか?という風に、手段を順序立てて考えられるのが良かったです。」


参加者Bさん)
「大学でプロジェクトについて教えており、実際に書いてみて、学生の論文やプロジェクト進捗管理にプ譜を使ってみたいと感じました。」

また、ある女性は、社内のプロジェクトで起こるこんな悩みについてシェアをしてくれました。

参加者Cさん)
「社内でプロジェクトを回していない人を対象にした研修をやっているんですが、実際に起きている事象と課題の区別だとか、目的と手段がごっちゃになることが課題です。本来であれば目的を達成するための手段として施策を考えるべきところを、逆になってしまうことがあり、目的と手段の選別する判断が難しいなって思っていて、どのように選別すればよいでしょうか?」


前田さん)
常に勝利条件を見失わないことが大切だと思います。勝利条件があれば、施策が目的に成り代わることはないと思うんです。それについて、“プロジェクトがうまくいかない時は勝利条件に立ちかえれ”と、プ譜の書き方に示しています。」

そのやりとりについえ、別の参加者からこんなアドバイスも。

参加者Dさん)
「もしかすると、勝利条件が曖昧だから目的と手段を見失うということが起こるんじゃないですかね?」

前田さん)
「なるほど。それであれば、プロジェクトを進めてはダメですよね。なので、チームとして目指すべき勝利条件はこれだ!というものを呪文のように発信し続けたり、紙に張り出して共有するといいですね。また、勝利条件は”チームとしてのプロジェクトの勝利条件”ですので、”各メンバー毎の役割上に生まれる条件(中間目的を達成する条件)”とは異なることへの理解も必要ですね。」

ファシリテーターの最上からもこんな気付きが共有されました。

フューチャーセッションズ 最上)
「実際に描いてみると、プ譜は一覧性が高く書き出すことでメンバー全員の意思統一ができると感じました。また、制作過程について、プ譜をメンバーと一緒に書くことで、”プロジェクトで、何を勝利とするのか”や、”その中間ゴールは何か”といった条件が深く理解できるので、協調アクションを行う上で、とても使えると思いました。」

「また、プロジェクトの勝利条件の設定の仕方は、とても重要だと感じました。特に、”問題の範囲”や”招き入れるステークホルダーの範囲”が異なると、勝利条件に大きな違いが出ることがわかりました。問題の範囲を狭めて、招き入れるステークホルダーを減らせば、プ譜の計画はシンプルで実行しやすいプロジェクトになるでしょうし、反対に、問題の範囲を広げて、招き入れるステークホルダーを増やすと、プロジェクトの勝利条件はみんなにとってハッピーな共通価値になりますが、実行の難易度が高くなることがわかりました。」

このように、プ譜を作成することで、プロジェクトを疑似体験できるだけでなく、そこから新たな気づきや示唆を得られるのも大きな魅力の一つです。だからこそプ譜をやる際には、その後のシェアタイムも大切にしていると前田さんは言います。



挑戦し、よりよく失敗せよ


セッションの最後は、前田さんから参加者へのエールで締めくくられました。

「サミュエル・ベケットの言葉に、『挑戦して失敗しても何の問題もない。再び挑戦し、再び失敗せよ。よりよく失敗せよ』というものがあります。プロジェクトってまさにこういうことだと思います。とにかく早く実施して振り返ってみる。使ってみる中で、プロジェクトが目指している目標が良くないと感じれば、より良いものに更新していけばいい。

計画ばかりではなく、ぜひ目的を実現するために一歩でも前にプロジェクトを進めて行くということを大切にしてください。」

__________

「失敗しないようにしよう」と慎重になるのではなく、 失敗することを前提にプロジェクトを進めていくこと。

動きながらも、大局観を忘れず、1歩ずつ成功に向けて改善していく。

そんなスタンスは、プロジェクトだけでなく、変化の激しいこの時代に生きる上でも大切な知恵ではないか。そんな学びも得られる、第3回未来勉強会になりました。

プ譜の作り方やプロジェクトの進め方について詳しく知りたい方は、こちらの本もおすすめです。

→『予定通り進まないプロジェクトの進め方





次回の第4回未来勉強会は、趣向を変え、2019年に向けて注目が集まる、ラグビーワールドカップ2019組織委員会のレガシー部部長をゲストにお呼びし、「スポーツのある人生」について一緒に考えていきます。

ぜひご興味のある方は参加してみてください。

第4回未来勉強会はこちら

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インスピレーショントーカー

前田 考歩(まえだ たかほ)
株式会社フレイ・スリー プロジェクトエディター

自動車メーカーの販売店支援兼グリーンツーリズム事業、映画会社のeチケッティング事業、自治体の防災アプリ、保育園検索システム、魚の離乳食的通販事業、テレビCM制作会社の動画制作アプリ事業など様々な業界と製品のプロジェクトマネージメントを行う。新規事業など未知性の高いプロジェクトに「編集」的方法を生かしたプロジェクト・エディティングの提唱、実戦を行う。


ファシリテーター


最上 元樹
株式会社フューチャーセッションズ イノベーション プロデューサー 

2015年グロービス経営大学院大学経営研究科経営専攻修了(MBA)。2002年に文房具事務用品メーカーのエーワン株式会社に入社後、営業、製品開発を経験。2010年から3M Japan Group 文具・オフィス事業部のマーケティングにて、事業戦略やマーケティング戦略立案を主導したのち、2016年1月フューチャーセッションズに入社。大手企業のイノベーションプロデュースを中心に活動し、現在に至る。

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【文・北埜 航太】


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