OUR FUTURES

このストーリーは

プロジェクト 「 フューチャーセッションズ未来勉強会

から投稿されました。

皆さんは、「知財」と聞いて何をイメージしますか?

『特許や著作権など、つくったものが容易に他者に使われないように守るもの』というのが一般的ではないでしょうか。必要なのはわかるけれど複雑で扱いにくい、そんな印象もあるかもしれません。

第5回目となる「フューチャーセッションズ未来勉強会」は、金沢工業大学イノベーションマネジメント研究科の高橋真木子先生をゲストに迎えて、「イノベーション活動における知財の役割」というテーマでセッションを行いました。
フューチャーセッションズ 未来勉強会#05

これまでアカデミックな立場から、産学連携活動を推進し、数々の共同研究開発を経験されてきた高橋先生のお話をヒントに、閉鎖的な印象の知財を「どうしたらビジネスにおけるイノベーション促進に活用していけるか?」ということについて、参加者と一緒に考えました。

本レポートでは、そのセッションの一部をご紹介します。



「今までの知財」と「これからの知財」では何が違うのか?


金沢工業大学イノベーションマネジメント研究科の高橋真木子先生


これまでは「知財」というと、製造業に代表されるような、技術を特許化、製品化し、市場に普及させて利益を得る際に必要とされるものでした。

その役割が、今まさに変わろうとしている、と高橋先生は言います。

「需要に対して供給力が少ない時代には、消費者のニーズに応えるためのモノを作って市場に出していれば良かったわけです。しかし
、もはや供給力が需要を上回っている現代は、いくら高品質・高機能であっても共感されなければ需要されません。
『欲しくなければいらない』という人たちを相手にするというのがこれまでとの大きな違いです。」

そういう時代には、様々な人たちと新たな価値をつくっていくことが求められます。そこにコミュニケーションが必要となり、ノウハウが求められる。それが「これからの知財」に必要とされます。知財を貨幣のように使い、コミュニケーションの際に自分の資源に対してオーナーシップを持つ。知財が公開、共創の手段になり、これまでとは位置づけが変わってくることが考えられます。



オープンイノベーションとは難しいもの

自社の技術のみで解決できない問題に対して、外部から知恵を結集して新たなモノやサービスを生み出すのがオープンイノベーション(以下OI)です。

 

クローズドイノベーションとオープンイノベーションの違い


新たな市場で新たな資源を使った領域でビジネスをする時代には必須のOIですが、実際に外部との連携を行っているという企業は2割程度という調査結果もあり、まだまだ活用されているとは言い難い状況です。

知識の絶対量が増えてその細分化も進んでいることステークホルダーが多様化していることなど、イノベーションを起こすこと自体がとても難しくなっています。しかし、「難しいからやらない」ということではなく、「難しいことをやろうとしている」という認識が必要なのだそうです。


高橋先生は、次の2つの図を使ってイノベーションの必要性を説明しました。

①破壊的イノベーション:

メンバーの知識の整合性が近いほど話は通じやすいけれど、イノベーションの効率は平均的なものになる。知識距離の遠い人には話は通じにくいが、時としてものすごいヒットが出ることがある。「コミュニケーションは取りにくくてもコラボレーションしていく価値はある」

 


②共同研究を行う事業所間の知識近似性と特許の品質との関係:

共同研究を行った場合のイノベーションの品質を、知識の多様性と特許の被引用数で表す。技術分類の近似度が近すぎても遠すぎてもイノベーションは起こりにくい。「ある程度の距離感を持った人とコラボレーションすることでイノベーションの効率が上がる」

 



オープンイノベーションへのアプローチ



では、実際にOIをやる時のアプローチにはどんなものがあるのでしょうか?

ここで示されたのが、「Buying Scarcity」と「課題共創」の2つのタイプ。


Buying Scarcity:「HOWを実現する手段としてのOI」目的が明確で必要なものがわかっているので、それを世界中から取ってくる。競争力が高いアメリカの企業などが採用している。

課題共創:「HOWの前に何をすべきかもっと明確にすべき。WHATを見出すためにもOIを役立てられないか?」何かを一緒につくっていこう、という考え方で、日本の企業はこのタイプが多い。


この課題共創の例として挙げられたのが、産学連携によるMEMS(Micro Electro Mechanical Systems*)の研究開発プロジェクトです。大企業からベンチャーまで、14の企業と6つの研究開発グループがコラボレーションする大型・長期のプロジェクトで、高橋先生が「知財は通貨だと思った原体験」だったと言います。

*MEMS:半導体のシリコン基板・ガラス基板・有機材料などに、機械要素部品のセンサ・アクチュエータ・電子回路などをひとまとめにしたミクロンレベル構造を持つデバイスのこと

立場の異なるメンバーが共創していくには、どのように知財を共有し、使っていくかという合意した知財ルールを作る必要があります。MEMSを一緒に作るのに、各々の持つ技術や情報をどこまでオープンにするのか、それとも秘匿するのか。どういう体制でやるかというルール作りに3年を要しました。

ここで出たキーワードが、「吸収能力」と「行動変容」。

全く異質な人たちがコミュニケーションし、吸収した新たな知恵を使いこなすのに必要なのが「吸収能力」、そして知財屋以外の人たちが関わることで、知財屋の行動そのものが変わってくるというのが「行動変容」です。

このプロジェクトの経験から、立場の異なるメンバーが課題共創をやるには、そのインフラを支えることをミッションとした専任のスタッフが必要であることも痛感したそうです。



既存組織に新しい活動を導入する「出島方式」


大企業の既存組織にイノベーションを起こすのは、決して簡単なことではありません。

そこで、最後に既存組織に新しい活動を導入する方法として「出島方式」が紹介されました。
本体から独立して離れた「出島」のような異質な組織で、自由にイノベーションを起こすのが有効だというものです。

ただし、「出島」のまま終わってしまうのではなく、本体のシステムに組み込み、意思決定のメカニズムに入れることや、本体とコミュニケーションをするためのコストを盛り込むことが大切になる、ということが示されました。



どうしたらイノベーション促進に知財を活用できるだろうか?


ここまでの高橋先生のお話を踏まえて、参加者同士の感想を共有し、さらに議論を深めました。以下に、いくつかの発言を抜粋します。


参加者Aさん:
「私は化粧品の会社ですが、OIで無いものは無いというほど行っていると思います。ただ、やはり知財同士の話から抜け出せていないので、もっと大きな観点で話をしていかなくてはと感じました。」


参加者Bさん:
「多くの大企業は縦割りになっていて中で対話ではができていません。人材もテクノロジーもあり、横で繋がると十分に新しいものが生まれるのにもったいないと思います。」


参加者Cさん:
「会社は今ある資産をいかに活かすかだと感じています。新たな価値を創造する領域でOIをやる、という話がありましたが、資産を活かせない領域になぜリスクを冒してまでいくのでしょうか?」


高橋先生:
「知財は雇用とは関係なく持ってこられるところにメリットがあります。例えば、金型を作る人をCADができる人に入れ替えようとすれば今ある資源に縛られますが、知財であれば人と切り離して使うことができるので、重要なOIのツールになり得ます。」


フューチャーセッションズ 宮武:
「大企業でインナーオープンイノベーションを起こすにあたって、知財部門は組織の中に横串をさしやすい立場にいるのではないかと感じましたがどう思われますか?」


参加者Aさん:
「ポジショニング的には悪くないと思いますが、コミュニケーションが得意でなくファシリテーションできていない人も多いと感じます。」


参加者Bさん:
「社内では技術やマーケティングが知財を使うという構図で、機密保持もあって面倒なことが多いです。社外のほうやりやすいことも多く、やはりOIは必要だと思います。」



実際にオープンイノベーションを行うのにはいくつものハードルがありますが、新たな価値が求められる時代にはやはり避けて通れないものであることがわかりました。

そして、そのハードルを乗り越えるのに、「知財」が有効な手段のひとつとなることを学ぶことのできた勉強会となりました。


次回、第6回未来勉強会では、

株式会社OTSサービス経営研究所 金城 弘毅 氏をお呼びして、「どうしたら、競合を超えて地域全体で共創が出来るだろうか?〜」というテーマでセッションを開催します。

→第6回未来勉強会の詳細はこちら


==================================================================

【インスピレーショントーカー】


高橋 真木子(たかはし まきこ)

金沢工業大学イノベーションマネジメント研究科教授

東工大、東北大、(独)理化学研究所等の在籍中に、国プロ、複数企業との共同研究開発のプロジェクトマネジメント、技術移転、研究推進支援に携わる。大学における研究推進支援の専門人材リサーチ・アドミニストレーターの必要性を広め、2014年RMAN-Jの設立に関わり副会長を務める。また産学連携活動を研究対象とし、NISTEP(文部科学省科学技術・学術政策研究所)、東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員、中央教育審議会委員、産業構造審議会委員、JST プログラムオーガナイザー等を兼務。専門分野:技術・知識移転など。


【ファシリテーター】

 

宮武 洋一

株式会社フューチャーセッションズ 

東京大学経済学部卒業後、印刷会社にて自動車メーカー向け内外装用加飾樹脂部品の営業を担当。
その後、輸入車インポーターにてエリアマネージャー、営業企画、ディーラー開発、財務、子会社の管理部門責任者などを歴任。2017年に金沢工業大学虎ノ門大学院にて経営管理修士を取得。
2017年4月に株式会社フューチャーセッションズに入社。足立区協創プラットフォーム運営、川崎市パラムーブメント推進ビジョン策定支援業務などを担当

==================================================================

【文・杉村彩子】


関連するストーリー