OUR FUTURES

東京ガスグループのシステム子会社、株式会社ティージー情報ネットワーク(通称TG アイネット)では、全社的な対話と協業の文化が広がりつつあります。その仕掛人は、IT ソリューション2 部 GIS グループ長の神垣 崇平さん。組織風土改革を一緒に進める、総務部の河内千晴さんと安藤 賢二さんとの三人で、TG アイネットで起きていることをお話しいただきました。このあとの文章は、すべて神垣さんの言葉です。素敵です。(インタビュアー:野村 恭彦)


会社の中でできないから辞めちゃうのは残念。

会社にいるからやれることがあるじゃないですか。
そう思いませんか?

「侍ジャイアンツ」って知ってますか?ちょっと古いかな。
アンチ巨人のヒーローが、巨人に入り、中から球団を変えていく物語。
そういうことが必要なのに、優秀な人が次々と大企業を辞めていくのは残念。
とはいえ、企業の中にいれば変えられるかというと、壁は高い。
企業の中から社会を変えていく人を応援したい。

他の企業の人から、声をかけてもらうことが多くなりました。
想いを持った別の企業の人同士がつながって、学び合うことがすごく大事だと思います。
状況は違うので、そのまま事例が使える訳ではないけど、他社のきっかけや糸口になれれば嬉しい。
つながりは大事だし、もちろんこちらも刺激がもらえます。


会社がフューチャーセッションやファシリテーターを必要としたときに、われわれは準備ができていました。

「ファシリテーターで食っていく」という言い方には違和感があります。
それより、「なぜファシリテーターになろうとしたか」が大事だと思うんです。
だってファシリテーションって手段でしょ?
なんだか分からないけどファシリテーターの勉強をしている人が多いと思います。
でも、何をしたくてファシリテーターの勉強をしているのか、もっと言語化して欲しい。
その想いを伝えることが周りの人を巻き込んでいく力になるから。

我々は「フューチャーセッションがやりたい」と主張したことはありません。
会社で新しい取り組みを始めようとしていたときです。
今までのやり方ではうまくいかないのではないかという話になっているときにあくまでも手段として「フューチャーセッションを使おう」と提案しました。
それが受け入れられたんです。

ニーズがあるときに、ちゃんと準備ができていたから、チャンスが捉えられた。
追い風の中で、ぐいぐいと進むことができました。
河内さんはファシリテーターとしての勉強をしていたし、
自分も組織開発のファシリテーションを勉強していました。
社外のフューチャーセッションにも参加していました。
安藤さんも、フューチャーセッションに興味を持って調べていました。

最初の時点で、こういう(勝手)チームがあったことが大きかった。
準備をしていると、どこかで風を捉えることができ、そういうことが起きるのだと思う。


社長から「会議のやり方を変えるだけでしょう、やればいいじゃない」と言われました。

大上段に「フューチャーセッションをやろう」ではなく、それが目的ではなく、
いま会社で困っていることを解決するためにあくまでもやっているんです。

自分として大きかったのは、今の部署になって現場を持ったこと。
会社の中で現場の40 人の部署を持ったことは大きい。
全社的な取り組みだと研修的になってしまうことが、現場で始めたら日常にすることができます。
イベント的なセッションはそんなにできない。
それより、日々の会議や打ち合わせで、模造紙や付箋な
どを使いながら未来思考で対話するようにしています。

ほかの現場の人が興味を持ったりと、社内への価値の伝わり方が違う。
ある意味好き勝手、自分の権限の中でならできる。
最初は、「なんか、遊んでんじゃない?」と違和感を持った人もいたと思うけど、まず若い人に響いた。
それまでパソコンの画面を見ながら打ち合わせをしていたのが、いつの間にか模造紙、ホワイトボード、付箋などを使いながら、ワイワイ・ガヤガヤ楽しそうに打ち合わせをするようになっている。
今ではもう当たり前。1〜2年目の若手は、はじめから職場で対話している「対話ネイティブ」です。

現場の課長レベルの人が、こういうことをやろうとすると、会社の風土が変わるんだろうなと思う。
自分と同じ職階の人に声をかけて、広めようとしています。

うちの会社では、ファシリテーションも、フューチャーセッションも普通の言葉になっています。
それでも、たとえば「会議力」とか、普通の言葉で話すようにしています。
今の会議のやり方に疑問を持っていない人はいません。
相手が響いてくれる言葉で、文脈で話す。
もし響かなくても、じゃましないようにしてもらう。
「オレはやらないけど、やればいいじゃない」って言ってもらえればいい。
会社の今を否定することはない。
今までの会議のやり方も必要だけど、アイデア出しの会議は変えましょうとか。
これって、社長にフューチャーセッションを説明した時に、「会議や打合わせのやり方を変えるだけでしょう、いいと思うならやればいいじゃない」と言ってもらったことで気づいたことです。


「自分でやることを自分で決めて、主体的にそれをやり抜くこと」が大切。

もともと、なんでフューチャーセッションみたいなことをやろうと思ったかというと、
「楽しく仕事ができそうだな」と思ったからです。
はじめて会った人が集まっても、こんな短時間でアウトプットが出るならいいな、と。
私自身会社員として、会社から与えられたミッションを果たすために働いているので、目標がやりたいことと必ずしも一致している訳ではない。
だけど、「自分で決めて、主体的にそれをやり抜くこと」で達成感を得て頑張ってきた。
だから、上の人が決めて、下がやるだけ、という仕事のやり方に違和感がありました。
もっと自分たちで考えようよ、もっと大きな目的から一緒に考えようよ、と。
そのやり方に、フューチャーセッションは合っていると確信したんです。


若手が主体的になって、提案して、実行するようになりました。

会議で何か考えていても話せない人がいる世界が、模造紙を敷くだけで、関係性が変わっている。
自分の部署で起きている変化。
それは、若手からぐんぐん主体的になっているということです。
自分たちで提案して、実行する。
高い目標を立てて苦しんでいるけど、自分たちで言ったことだから、一人ではないから、人のせいにせずに頑張っている。
組織内のコミュニケーションが格段に良くなっています。

その人の特性とか、成長してきた環境とかがあって、言われたことを
しっかりやり遂げることに生き甲斐を感じている人も、間違いなくいます。
その人だって自分で考えた方がいいに決まっていると、こっそり思っているけど、
今のその人の生き方や価値観を否定しないように気をつけています。(まだできていないけど。)
あるときまでは自分も、「こうだー」って自分の価値観を押し付けていたんですけど。
傾聴って難しい。

目に見える成果は、出ていますよ。
今まで放っておいて誰も手をつけなかった問題に、手をつけるようになった。
それが今年起きている。
未来思考効果が出ています。
若い社員が「10 年後を考えたら、今やっておかないと」とか言って来る。
感動するよね。


現場を動かしている課長レベルが変わるのが一番。

新しいやり方をとって失敗すると、自分で責任を取らないといけない。
グループ長の評価は、目標を達成できなければ、バツ。
でも人を育てることも、ミッション。

自分たちで考えて、始めて、うまくいかないことはある。
もともとのミッションはそのままだから、一人ひとりの仕事は増えているかもしれない。
でも、それを上回るモチベーションの高さと組織の一体感で達成していく。
上はそれを見ていてくれる。もっとやれと後押ししてくれる。嬉しいですね。
いいことばっかり。
プラスはあっても、マイナスはない。
こういう話を聞くと、「やってみようかな」となるグループ長も少しずつ出てきます。


社外でのプロボノとの相乗効果もある。

勝手チームの三人で、「ひきこもり問題フューチャーセッション[庵-IORI]」の運営を社外の仲間と一緒にやっています。社内で身に付けたフューチャーセッションやファシリテーションのノウハウを活かして社外で貢献する「プロボノ」です。
「ひきこもりが問題でない世の中にしよう!」という理念で活動していて、1 年以上フューチャーセッションを重ねてきました。フューチャーセッションに参加しているひきこもりの当事者たちが自分から行動を起こして、「ひきこもり大学」という取り組みが始まっている。これまで起きなかった変化が起きています。
[庵-IORI]のフューチャーセッションは、社内のセッションとはまったく違うので、学ぶことがたくさんある。
[庵-IORI]で学んだことで社内のセッションの質が上がり、社内でトライしたことが[庵-IORI]で役に立つ、まさに相乗効果。
なぜ、会社員がボランティアで運営しているの?と聞かれることがあるけれど、とても大切な経験をさせていただいている、と思っているんです。


場づくりは続けたい。

いま50 歳。最長65 歳まで勤められることになっているけれど、これからどう過ごそうか、と考え始めています。
どこかで、会社というところを離れて、コミュニティなどで社会に貢献したいな、というところもある。
社会問題を解決する場づくりを自分ではやりたい。
人をつなげる仕事を続けていきたい。

こういうことをやる前は、考えてもいませんでした。
すごくたくさん、セッションで人と出会ったし、いろいろな価値観を感じたりして、
自分もそこに向いているかなと気づかされました。
でも当分は、企業の中から社会を変える、というところにこだわりたい。
社会起業家と一緒に企業が何かをする、そういうことを内側から働きかけたい。


あきらめないでほしい。

企業の中で「よりよい組織をつくる」活動をしている人には、ぜったいあきらめないでほしい。
難しいかもしれないけど、社内で仲間を探してほしい。

くじけそうになったり、困ったことがあったら、声かけてね。
一緒にやりましょう。

(談:神垣 崇平さん)

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