OUR FUTURES

2025年 オランダ・ジャーナリズムの未来3 #020

前回に引き続き、オランダのジャーナリズム基金がまとめたテクノロジーの受容と社会的信頼の2軸によって分かれる4つの「2025年 オランダのジャーナリズムの未来シナリオ」のうち、「急進的 + 自分のためにやってもらう」で現れる「A Handful of Apples」のシナリオを紹介します。


The journalistic landscape in 2025 - four different scenarios http://www.journalism2025.com/


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A Handful of Apples

2025年、この世界の概要

テクノロジーの変化は急加速し、一握りのインターネットの巨人(アリババ、Apple、百度、Facebook、Google等)が市場を支配しており、それらの企業のCEOの力は強大なものになっています。

小規模企業にとっては厳しい状況ですが、大企業が何でも面倒を見てくれているので市民は幸せを感じています。

市民がプライバシーを気にすることは稀なことであり、オランダのジャーナリズム組織は抑圧された状況にあります。


2025年の市民・政府・企業の姿

サービスに個人情報を提供することを気にしない市民

インターネットの巨人たちは高品質なコンテンツを無料で提供し、それに対して消費者である市民は個人情報を提供していて、多くの場合そのことに気づいてもいません。個人情報は爆発的に成長しているオンラインの広告市場で主に使われています。巨大企業の目的は、消費者の信頼を損ねることなく、できるだけ大量の個人情報を取得することです。少数の活動家のグループはプライバシー侵害について激しく抗議していますが、多くの市民はほとんど関心を持っていません。


知的財産保護を促進し巨大企業を支援する政府

映画、音楽、アプリのグローバルへの配信ネットワークも、いくつかのインターネットの巨大企業によって独占されています。Facebook、Google、Twitterのようなプラットフォームはその地位をさらに高め、これらプラットフォームの力は多くの政府よりも強力になっています。

また、配信ネットワークを所有する企業の力は、アメリカとEU間の自由貿易協定の導入によってさらに高まっています。この協定のおかげで、著作権や特許の存続期間は数十年間延長され国際執行は強まっています。小企業や制作者は特に影響を受けていて、他人の作品を活用して何かを製作することが極めて難しくなっています。一方、Facebookのようなプラットフォーム上で開発されたすべてのコンテンツはそれら企業の知的財産になり、例えばアップロードされた写真がFacebook上で販売されたり、広告に使用されたりしています。


小規模企業から利益を搾取する巨大企業

インターネットの巨大企業として、Facebook等のアメリカのプレイヤーに加えて、中国、インド、ロシアからの巨大企業も重要なマーケット・ポジションを獲得しています。

多くの小規模なコンテンツ制作者が存在していますが、コンテンツの配信に関しては巨大企業が独占する何億ものユーザーにリーチできるインターネットプラットフォームに依存しています。これにより、巨大企業は小規模コンテンツ制作者によるゲーム、映画、シリーズもの、音楽、アプリから利益を搾取することができています。


2025年のジャーナリズムの姿

姿を消すオランダの報道機関

ニュースは、グローバルに展開しているデジタル・プラットフォームと、アルジャジーラや中国中央テレビやロシア・トゥデイのような大きな専門機関によって提供されています。完璧な翻訳アルゴリズムによって世界中のコンテンツはすべての言語で簡単に利用できるようになっています。

インターネットの巨大企業によって、多くのオランダの報道機関は市場から追い出され倒産しています。収益を獲得するために、寄付、定期購読、オンラインショップ、イベントなど、さまざまなやり方を発見しようとしましたが、柔軟かつ迅速に対応することができませんでした。


減少するジャーナリズムの監視の力

巨大企業はオランダの大衆を単なる消費者集団にしようとしているのではないかと考える小グループの市民や利益団体は、ジャーナルズムの独立性、報道の品質、メディアの多元性について非常に心配しています。しかし、信頼性が高くて中立的なオランダの報道機関は非常に減少しており、ジャーナリズムによる監視の力は著しく損なわれています。このためオランダの報道機関をどうするかについて政治の議題になることもあり、政府は一つか二つの公共放送局に対して資金供給していますが、支援は小さいものにとどまっています。


体験型ニュースとそれを支える巨大企業

バーチャル・リアリティー等の急激なテクノロジー発展によって、視聴者があたかもそこにいるかのようにニュースのイベントを体験することができるインタラクティブなニュースが配信されるようになっています。しかし、このような体験型作品を制作するにはジャーナリスト、プログラマー、デザイナーが協働する大規模で学際的なチームを必要とします。体験型作品は高コストで専門知識が必須であるということから小規模組織では製作が難しく、巨大企業がほぼ独占する形になっています。

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この未来シナリオは「A Handful of Apples」という名前の通り、少数の巨大企業の力が非常に大きくなっていて、市民も政府もそれを許容している社会です。これはオランダのジャーナリズムの未来を描いているので、オランダのジャーナリズムが極端なまでに衰退するという表現にはなっていますが、このような状況は日本では起こりえないのでしょうか?また、便利なサービスを享受するために市民はプライバシー侵害を許容し続けるということでもあり、ここについてはポリシーも分かれそうなシナリオです。

未来シナリオの良さは極端な未来をあえて想定することで、自分たちがそれに備えるようにしたいのか、それともその未来が起こらないように変革活動を推進したいのかを対話を通じて深めていくことができる点であり、この未来シナリオも問題提起としてはとても興味深いものになっているように感じます。

次回は、1つ目と2つ目の未来シナリオとはテクノロジーの受容という軸で分岐する、3つ目の未来シナリオ「The Shire(不承不承 + 自分でやる)」を紹介します。


■未来の兆しにご興味のある方は
https://goo.gl/OMyJiw

文/筧 大日朗(OUR FUTURESディレクター)


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