OUR FUTURES

教育という領域で、様々な活動を実践してこられた中曽根さん。教育問題を捉え直し、多くの人に関心を持ってもらい、新たな関係性を生み出すフューチャーセッションを実施されています。教育とフューチャーセッションの関係性、可能性について伺いました。


ーーどのようなフューチャーセッションを展開しておられますか?

デンマークへの視察をきっかけに、国民の幸福度世界一の国から何が学べるのかということを「教育」という切り口で、多様な方達とのセッションを始めました。
幸福度という観点から、子どもたちを育てるために何ができるのか考えてみたかったのです。
漠然としたテーマだとは思うのですが、参加者が多数集まり、びっくりしました。テーマへの関心の高さ、手応えを感じます。
参加された皆さん、自分たちが充実した生活をおくり、自分自身が幸福にならないといけない、子どもたちにその背中を見せていかなければならない、という感想を持たれたようです。


ーーなぜ教育というテーマにフォーカスされたのでしょうか?

私自身は20年近く、自分の子どもの教育や、子育てを通じて感じた、「こんな本があったらいいな」という読者の視点を生かして本の企画編集をしてきました。
この10年で、教育現場の仕事が増えて、学校現場で直接先生の話を聞く機会が増えたのですが、そこで感じたことは、「子どもの幸せのために、先生はがんばっているし、親もがんばっている。でもみんながつながっていないし、特に教育と社会が連携していない。課題がいっぱいある」ということでした。

例えば、受験制度や就職活動。何が悪いというより、それぞれが複合的に絡み合っていて、問題は複雑化しています。でも、誰もが日本の教育や就職のあり方は、このままではよくないと思っているのではないでしょうか。
仕事で中学受験の現状を追ってきましたが、これまでは「いい大学に行く→いい会社に行く=幸せ」というわかりやすい経済重視の価値観があり、そのルートにのせるための教育がありました。
しかし、今はその図式は崩れています。グローバル化により社会も変わってきているのですが、その変化に教育がついていっていないのです。
本来、個々の幸せのあり方もそれぞれ違うはずですが、これまでは、疑問は感じていても、安定を求めるための偏差値至上主義に対する具体的な反論ができなかったのです。
しかし、3.11以降、世の中の流れ、思考も変わってきています。


ーー実際に教育テーマのフューチャーセッションを実施してみていかがでしたか?

多様な立場の人たちが、1つのテーマで話すことによって生まれる可能性を感じています。
いろいろな方が集ることでインプットも多様になりますが、アウトプットも多様になります。
これまで数多くのワークショップに参加しましたが、その多くがインプットだけであったり、アウトプットは出ても、参加者同士が「学びあう」というところまでいかなかいことが多かったのですが、フューチャーセッションでは、一方通行的な「学び」ではなく、双方向で学びあい、そこから新しい発想を得ることができました。
よく教育の世界では、探求型の学び、双方向の学びが重要と言われていますが、フューチャーセッションは、それを体現しているものではないかと感じています。つまり、「学び」の新しいスタイルと言えるでしょう。


ーー探求型の学び、双方向の学びというのは、現在の学校教育ではなかなか実施が難しいものだと思います。


視察に行ったデンマークでは、1人1人が自分の軸を持っています。幼児のときから、自分で考える探求型の学びを体験していて、発想力・考える力がついているのです。
しかし、日本においても、それはそんな難しいことではないのかもしれません。 まずは、考える大人たちが増えていくことが大事です。

学校教育、制度を変えるというアプローチではなく、できる所を変えていく方が手っ取り早い。フューチャーセッションのような場で気づきを得て、自分はどうするかを考えていく。そんな作業を、多くの人たちが繰り返していけば、結果として社会は大きく変わると思います。ですから、フューチャーセッションを学びの場として広げていきたいと思っています。
これまでフューチャーセッションを大人向けに3回やってみましたが、今後は子どもも一緒に学ぶ場にしていきたいと思っています。
キャリア教育が大事と言われていますが、まだまだ、子どもは社会に触れる機会が少ないです。単なる職業教育ではなく、いろいろな価値観を持った人や、大人に触れる機会を増やしていく。逆にその場にいる大人も、子どもが持っているものに気づき、学び合える場にできたらいいなと思います。


ーー大人も子どもも一緒に学ぶというのは新しい視点だと思います。

今の社会は大変革が起こっていて、「こうしたらいい」という答えがあるものは少ないですよね。
親としては、未知な環境に子どもたちを放り込むのは勇気がいります。どうしてもできるだけ安全で安心できるルートに行ってほしいと願うものです。
しかし、混沌とした世の中に出ていく子どもたちに必要なのはまずは体力。そして知力・気力です。そして、大人自身が模索する姿、行動を起こしていく姿を見せていき、大人も子どもも一緒に学び合い育っていくしかないのです。

フューチャーセッションのように、安全な場で何を言ってもいいとわかると、初めてあった人たちでも、みんなが熱くいろいろなことを話すエネルギーが場に生まれます。
自分の考えや思っていることを言ってみると、案外同じことを考えている人がいて、心強くなり、できるかもしれないという気持ちに変わっていくことで、当事者意識が高まります。


ーー当事者意識というのは、あらゆる場面で薄れてしまって、今またそれを取り戻そうという活動が盛んになってきている印象です。

デンマークでは、まさにその当事者意識をみんなが持っているのです。
なぜそうなのかと考えたところ、ソフトランディングという仕組みが大きいのではと思い当りました。
ソフトランディングとは、子どもの育ちに応じて、進級を決めていくやり方です。
自分とじっくり向き合い、将来をしっかり考える時間にもなります。
つまり、社会の中で自分らしく生きる、働く、何ができるかを学ぶプロセスが教育なのです。
その中で、社会の一員であるという当事者意識、自立した個人が形成されます。

日本の場合、レールが敷かれていて、義務教育を終えて、みんな高校にいく。そして何を学びたいかわからないまま大学にいく人が多いのではないでしょうか。
しかし、「大学ぐらい出ておかないと、大学卒という資格を取っておこう」というレベルなので、目的意識が無いまま4年間を過ごしてしまう。そして、大学を卒業して就職活動をするときになって、初めて自分と社会と向き合わざるを得なくなる。
でも、本当は、職を探す時になって焦って自己分析をしても遅いのです。
日本にも、10代の時にしっかり自分のことを考えられる、ゆるく社会にソフトランディングできる仕組みがあればいいなと思います。


ーーソフトランディングの仕組みは、とても大切だと思いますが、実現には時間がかかりそうですね。  

そうですね。制度を変えるのは時間がかかります。でも、もしかしたら、「私はそうする」と決めればいいのかもしれません。
何に影響を受けるかは、それぞれ子どもたちによって違いますが、学校で、家庭で、地域で、いろいろな可能性に触れられるチャンスを作る事。より多くの大人に触れる、意見に触れる、経験を繰り返していく事ができれば、社会にソフトランディングしていけるのではないでしょうか。

高度経済成長の中では、昨日より今日、今日より明日と、より便利に、物が豊富になってきました。 今、心地よい暮らしを求めてはいるが、そういう表層的な価値に対して、懐疑的な意識も芽生え始めています。
最近は特に、グローバル人材の育成が言われていますが、本当の意味でのグローバル人材というのは、英語を駆使して、海外の国々に負けじと稼ぐ人ではなく、国境を越えた地球市民の意識をもって生きることができる人ではないでしょうか。

本当に力のある人は、その力を、社会を良くするためであったり、他の人のために使うものだと思います。知恵のある人は、その知恵を周囲の人のために使ってほしい。ベクトルを自分だけに向けないという価値観を育てること、これが教育の本質ではないでしょうか。


ーーこれからも教育をテーマにフューチャーセッションをされると思いますが、今後の展開を教えてください。

これまでの教育に変わる概念を考えていきたいと思っています。
これからは、各地で新しい教育をテーマに活動している人たちと継続的につながり、フューチャーセッションから生まれるアクションを支援していきたいです。
全国で一斉に教育のフューチャーセッションウィークをやってみるのもいいかもしれません。
特に地方には可能性を感じていて、小さなコミュニティの方が面白い実践ができるものがあると思います。
トップダウンではなく、ボトムアップで社会が変わっていく。いつかそれが当たり前になっているような状態をつくっていけたらいいですね。

フューチャーセッションを継続的やっていきながらも、そこに関わる方が、ボランティアではなく、仕事に結びつけられるようにするなど、持続可能な活動にしていきたいと考えています。


プロフィール
中曽根 陽子(なかそね ようこ):小学館勤務後、女性のネットワークを活かした編集・取材活動を行う、情報発信ネットワーク「ワイワイネット」を発足、代表に。子育て中の女性の視点を捉えた企画に定評がある。『子どもとでかけるあそび場ガイド』(メイツ出版)のシリーズは10年以上にわたるロングセラーとなり、シリーズ累計50万部超。現在は、教育ジャーナリストとして、教育雑誌から経済誌、新聞連載など幅広く執筆。特に最近は、偏差値主義の教育から、個を生かす教育へのシフトを目指して、積極的に活動をしている。
デンマークに学ぶ!これからの教育フューチャーセッションvol.3
北欧教育の専門家に学ぶ!これからの教育フューチャーセッションvol.4


聞き手・構成・文/有福英幸(OUR FUTURES編集長)

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