OUR FUTURES

2025年 オランダ・ジャーナリズムの未来2 #019

前回に引き続き、オランダのジャーナリズム基金がまとめた「2025年 オランダのジャーナリズムの未来シナリオ」を紹介します。

The journalistic landscape in 2025 - four different scenarios http://www.journalism2025.com/

この未来シナリオが生み出された手法であるシナリオ・プランニングの紹介や、未来のシナリオの分岐点となる次の2軸を発見したことを前回では説明しました。



  1. テクノロジーの受容(acceptance of technology)
    急進的(radical) or 不承不承(reluctance)?
  2. 社会的信頼(social trust)
    自分でやる(do-it-yourself) or 自分のためにやってもらう(do-it-for-me)?


今回はこの2軸によって分かれる4つの未来シナリオのうち、「急進的 + 自分でやる」で現れる「Wisdom of The Crowd」のシナリオを紹介します。



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Wisdom of The Crowd

2025年、この世界の概要

テクノロジーは急進的に受容され、インターネットの巨人(GoogleやFacebook等)によるプライバシー侵害に苛立つ市民は、企業等に頼るのではなく自分たちの手で様々なものを組織化しています。そのため、スタートアップやバーチャル・コラボレーションに社会や経済が支配された世界となっています。

「参加」「自分自身で行動を起こす」「コラボレーション」「シェア」が重要な社会的価値になっていて、シェアリングエコノミーは発展し、営利・非営利問わずAirbnbのようなプラットフォームが多数生まれています。

メディア・ブランドの地位や信頼は落ちており、何がニュースとなるかは市民が決めています。


2025年の市民・政府・企業の姿

市民の責任感は強まるが、新たな対立と格差が生まれている

企業によるプライバシー侵害への市民の苛立ちは増大し、オープンソースのプラットフォームの中から有用な代替品を見つける活動を活性化させ、自分たちのことは自分たちでするという意識と行動力が高まっています。そのため、市民ジャーナリストの数は激増しています。

自分で何かを創造するテクノロジーは発展し、3Dプリンターの需要も高まっています。おもちゃやランニングシューズなど、なんでもプリントできる「小規模なプリント・ショップ」が街のいたるところに立っています。

一方、自己管理が強く求められる社会であるため、活動的な市民と、社会的接触が少なく活動的でない市民は対立しています。

また、大量のテキストや画像などのデータに対して自分で判断することはますます難しくなるため、専用アプリが開発されてはいますが、それを使いこなす人とそうでない人との情報格差は広がっています。


政府の役割はプライバシーとネット中立性の保護

政府はプライバシーとネット中立性(全てのインターネット・トラフィックは平等に扱われるべきだとする考え方)の保護者としての役割を主に担うようになっています。

ただし、政府の役割は小さくなり公共放送への資金を減少させています。公共放送のチャンネル数は減少し、唯一残る公共放送は、一般情報、災害情報、年配者等に対してデジタルメディアの扱い方を教えるなどのために使われています。


支配的な企業は減少

市民による自己管理意識の高まりと政府の監視の強化により、一握りの企業が市場で支配的に振る舞うことは難しくなっています。小規模なコンテンツ制作者やアプリ開発者が市場に多数参入することで競争は激化し、これが結果としてさまざまなスタートアップやイノベーションを生み出す土壌となっていきました。


2025年のジャーナリズムの姿

断片となったジャーナリズム

記事にビデオ、オーディオ等の製作物をよりリッチに組み込めるようになり、さまざまな構成要素を使って記事が製作されるようになります。記事を簡単に再利用できるようになっていますが、ジャーナリストが最終製作物に対してコントロールできなくもなっています。


あなた専用ニュースがジャーナリズムの収益源に

ユーザーの状況・興味に合わせてニュース記事は配信されるようになっています。パーソナライズされたニュースが課金対象となっていますが、消費者は高品質な金融ニュースには代金を払っても、一般ニュースに対してはほとんど誰もお金を払っていません。


キュレーションとファシリテーションがジャーナリズムの重要な仕事に

市民ジャーナリストの数は急増し、プロのジャーナリストの数は減少しています。プロの役割はニュースを選別して事実を確認するだけでなく、市民との討論の進行役を務めるようにもなっています。この仕事を支えるため、機械学習によってテキストを生成したり、大量の画像の出所をチェックしたりする「ロボット・ジャーナリスト」というソフトウェアも登場しています。

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オランダのジャーナリズムの未来を描いているシナリオではありますが、日本の未来シナリオにもなりうる可能性を感じるものではないでしょうか。このような未来が実現した時、市民は一体どのような組織や活動を立ち上げ、日本のメディアやジャーナリストはどのような役割を担っているのでしょうか。日本とオランダで共通すること、違うことは何か。そのようなことを考えてしまいたくなるシナリオです。

オランダのジャーナリズム基金はそこを意図して、メディア組織向け、ジャーナリストのトレーニング向け、フリーランスのジャーナリスト向けのワークショップのためのツールも作成し配布しています。興味のある方は是非ダウンロードしてみてください。

次回は、2つ目の未来シナリオ「A Handful of Apples(急進的 + 自分のためにやってもらう)」を紹介します。


■未来の兆しにご興味のある方は
https://goo.gl/OMyJiw

文/筧 大日朗(OUR FUTURESディレクター)


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